ピラティスは”カラダの開拓の旅” – 知識ある講師の大切さ
「体は放っておくと”レイジー”になって、省エネモードになってしまう。だからこそ“開拓”し続けなければならないと思うんです。
聴き手:BDC PILATESディレクター 樋口知香
世界最高峰のコンテンポラリーダンスカンパニー、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT I)で第一線に立ちながら長年にわたり踊ってきた刈谷円香さん。その伸びやかで力強いパフォーマンスは、音楽の旋律と躍動感に引き込まれるような自然な魅力をもつ。
16歳で単身ドイツへ留学し、ヨーロッパのダンス教育を経て、スイス・チューリッヒ・バレエ団、そしてNDT II・Iと名門カンパニーでキャリアを築いてきました。
現在はオランダを拠点に活動しながら、ダンサー兼クリエーターとして、そしてオートクチュールなどのモデルとしても活躍されている刈谷さん。日本への一時帰国時には数々の舞台もこなす多忙な毎日。
今回は、刈谷さんのダンス人生を支えてきた「ピラティス」との出会い、そして本物の指導者の大切さ、そしてこれからのビジョンについてお話しいただきました。
Photographer: Andrea Guermani
■「体を開拓する」という感覚
人間の体って、放っておくとすぐに“レイジー”になって、省エネモードに入っちゃうんです。だからこそ常に「開拓」を続けなければ、今ある体も保てないと思っています。
ピラティスをする時間は、携帯とかも置いて、自分の体に全集中する特別な時間です。今日のBDC PILATESでの撮影でも、先生に動きの指導をしていただき、細かく直していただきながら動くことができました。それだけで「ああ、この感覚忘れてた」と強く思い、それだけで眠っていた筋肉が呼び覚まされたような感覚になりました。
最近は公演が続いてなかなか自分の体に向き合う時間が取れなかったので、今日のセッションは本当に大きな気づきでした。心地いい疲労感を、今だいぶ感じています!
■16歳、ドイツへの旅立ち
— 海外に渡られたのは16歳のときですね。
はい、独ドレスデンのダンス学校、パルッカシューレへ奨学金をいただいて入学しました。そこはクラシックバレエだけでなく、コンテンポラリーダンスにも本格的に挑戦できるカリキュラムがあり、しかも卒業時には学士号が取れるという珍しい学校でした。
私はそれまでバレエ一筋だったので、コンテンポラリーに取り組むのは正直最初は苦労しました。でも「新しい世界を見てみたい」と思ったんです。あの環境で、自分の体や踊りに対する考え方が大きく広がりました。
■チューリッヒでの出会いとピラティス
— 卒業後、スイスのチューリッヒ・バレエ団に入団されたんですね?
そうです。チューリッヒでは、有志のダンサーだけが受けられるピラティスのクラスがありました。私は性格的に「与えられたものはなんでも挑戦しよう」というタイプなので、迷わず手を挙げました。
蓋を開けてみたら、せっかくのチャンスなのに、みんなリハーサルで疲れてしまってなかなか来ない(笑)。その結果、人も少なかったので、先生にじっくり時間をかけてもらうことができたんです。
しかもその先生は本当に知識が深く、そんな方と出会えたのは本当にラッキーでした。私が感覚と頭での理解をつなげようと時間をかけるのを辛抱強く見守り、導いてくれました。あの出会いが「体とどう向き合うか」を根本から変えてくれたと思います。
■NDTでの11年間、忙しく舞台に立ち続ける日々とピラティス
— その後、オランダのネザーランド・ダンス・シアターに移られたのですね。
はい。チューリッヒでの2年の経験を経て、その後コンテンポラリーダンスの世界に入ろうと、NDT II(ジュニアカンパニー)に入団しました。まさに相思相愛という感じで、自然に居場所が見つかった気がしました。その後、NDT Iに昇格し、2025年初頭まで11年間在籍しました。
NDTは「クリエイティブハウス」として、世界の振付家とダンサーが一緒に新しい作品を生み出していく環境に強く惹かれました。もちろんそこでもピラティスは継続。カンパニーの建物内にトレーニングルームがあり、先生と共に常に体を「開拓」し続けていました。
■健康寿命と両親の姿
— ご両親も踊りと関わりが深いとか。
父と母はもともと南米のフォルクローレ音楽舞踊を通じて知り合ったんです。今は定年を迎えて、なぜか二人でアルゼンチンタンゴに夢中になっていて(笑)、元気に踊っています。タンゴを続けるためにジムでトレーニングまで始めている姿を見て、「健康寿命」の大切さを意識するようになりました。
ただ長生きするのではなく、自分の足で立ち、歩いて健康的に生活できる期間をどれだけ伸ばせるか。それがこれから如何に大事になってくるかを両親の姿から学びましたし、ピラティスはそのためにとても役立つと思っています。
■日本のピラティスに感じた「流行」と危うさ
— この夏、日本に帰国してスタジオの多さに驚かれたそうですね。
本当に驚きました。「ちょっと流行っちゃってるな」って思いました。日本は何かが流行ると、みんながそこに向かいますよね。その中には講師の育成に十分な時間をかけていないスタジオもあるみたいで。短期研修でインストラクターをデビューさせ、大人数を相手にマイクで指導するようなスタイルもあると聞きました。
私のNDT時代の友人もピラティスの資格をとり、オランダでピラティス講師をしていますが、大人数なんて怖くて絶対に見られないって言っています。
ピラティスは正しく行えば体を変えてくれますが、間違えば怪我につながるなど逆効果です。
だからこそ、知識ある先生と出会うことが本当に大事。
流行だからと手軽に始めて「怪我した」「合わなかった」とやめてしまうのはもったいない。ピラティスの本当の良さが、正しい形で広まっていってほしいと願いますし、せっかく体と向き合う時間をつくるなら、知識のある先生のもとで本質的にやるのがいいのではないかなと私は思います。
■BDC PILATESへの信頼
―当スタジオについてはどう思われますか?
BDC PILATESは、講師養成にじっくり時間をかけ、本物の知識を持った人材を育てている点は、本当に信頼できると思います。40年以上もダンサーを育成してきている経験があるんだから、やはり人間の体のことについては分かっていると思います。それはダンサーではない方の役にも、きっと役立つはずです。
先ほどの撮影でも、先生が細かく動きを見てくれて。すごく細かい部分だけれど、それを直されることによって、自分の中で眠っている筋肉が呼び起こされるんです。それが本来のピラティスですから。
やっぱりピラティスってこういうことだよね、と気づいた人がここに集まってくる。そういう自然な流れの中で、BDC PILATESは「本物を求める人たちの場」になっているのではないでしょうか。
■今後のビジョン
— 今後の展望についてぜひ教えてください。
NDTは今年の頭に卒業して、今は新しいことにもたくさん挑戦していきたいと思っています!
現在はオランダに住み、ダンサーとしての活動に加えて、モデルとしても仕事をいただいています。最近のヨーロッパのクチュールは、出演者の「ムーブメント」を取り入れるショーが増えていて、そこに声をかけていただけるのはとても刺激的です。
いずれはムーブメントディレクターとして、振付や動きの指導をする立場にも挑戦していきたいと思っています。そして日本と欧州のダンスアート界をつなぐ橋渡しにもなりたい。コンテンポラリーダンスの楽しみ方や美しさを、日本の方々にもっと紹介できるようなイベントも企画しています!
■終わりに
刈谷さんの言葉からは、ピラティスはただのエクササイズではなく、自分の体と心を探検し続ける「開拓の旅」なのだという確信が伝わってきました。
時間はかかるかもしれない。でも自分では気づけなかった筋肉のありかや動きを開拓し、呼び起こし、本来の機能を取り戻していく作業。それがピラティスのあるべき、そもそもの姿だという刈谷さんの信念は、BDC PILATESが掲げる理念そのものでした。
正しい指導のもとで、自分の体に真摯に向き合う時間は、ダンサーに限らず誰の未来にとってもかけがえのない時間となる。
そんな確信を改めて持つことができ、勇気づけられるインタビューでした。