プロゴルファー・湯原信光氏(2) | 東京のマシンピラティス専門スタジオ BDC PILATES (BDCピラティス)

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Interview

プロゴルファー・湯原信光氏(2)

2022.06.29

湯原 信光氏
プロゴルファー
東京国際大学特任教授・ゴルフ部監督
湯原信光 オフィシャルサイト https://yuhara32.jp/

 

ー とっても勉強になります!ちょっと話は変わりますが、大学のゴルフ部の監督をされていますよね?このスタジオでやられることは、学生さんたちに指導をされる上で何かお役に立てていますでしょうか。

僕の父親が工学博士ということもあるんだけれども、自分も理系の頭を受け継いでいるみたいで、やっぱりものに対して裏付けを取るタイプなんですよ。自分もゴルフのスイングをするときにもそうだし、指導をして伝えるときにもそうなんだけど、骨格としてどうなの、筋肉としてどうなのという裏付けが必要なんですよ。だから自分としても色んな経験が僕は必要なんですよ。

 

自分も怪我が多かったんだけど、その時は何で?って思うことが多かったんだけど、今こういう職業についてみると、妻にも言われることだけど、今までの怪我の経験が人を指導する上ですごくプラスになってるよね、って。そうじゃないと、そこまで詳しくは調べなかっただろうし、痛みというものに対してのアプローチの仕方を勉強してきているんだけど「脳の中の幽霊」っていう本があってアメリカのドクターが書いた本なんだけど、ヘルニアが酷くて2ヶ月間動けなかったことがあったんだけど、そのときにその本を一生懸命読んだんですよ。どうやって脳をある意味騙せるか。障害で、例えばヘルニアで手術をして、痛みの元はとってるのに、痛みが残っているということがある。どうして?って僕の中で疑問で、それに答えてくれる本がこれだったんですよ。

 

左の手は動くけど、右の手が動かない人が、ボックスの中でミラーを使って、右手も左手と一緒に動いているように見せる。それで左手を動かしていくと、だんだんと右手も動くようになっていく、みたいな話がある。そういうようなことを読んだとき、脳っていうのはやっぱりすごいんだな、脳をコントロールすることで体をコントロールすることができる。脳にアプローチをするためにはどうしたらいいの?と思う部分があって、色んなことをやってみたんだけど、ピラティスがそれの一つなんじゃないかと思って始めてみた部分があります。

ー 「コントロール」という言葉を使われましたが、湯原さんは、脳から発信される信号を、体を通して、筋肉を通して、クラブを通して、最後にボールに伝えて、その行方をコントロールされているのだな、というイメージをすごく今持ちました。

運動って、よく「体で覚えろ」って言うのだけど、実はそんなことってあり得なくて、筋肉って記憶をする装置では全くなくって、脳が全てを記憶していて、脳からの司令で筋肉は動いているだけの話だから、脳に覚えさせないといけない。だけど「ただ打てばいい」「体に覚えさせればいい」というのは実はあまり効果的ではないんですよ。

 

私は6歳の時からゴルフをしているんだけど、先ほど言ったように父親が工学博士ってこともあったんだけど、「家で勉強をするな」って言われてたんですよ。「そんな学校で覚えて来い」と。学校で授業の中で覚えればそれはそこで勉強できるでしょ、という教育方針で育てられたんですよ。だからゴルフも一緒で、決められた時間しかやらせてくれない。1日に百球とか五十球とか、30分とか1時間とか。それしかやらせてもらえなかった。そう言われるから、どうやったら効率よく上手になるかな、って小さい頃からいっつも考えていた。

 

だから例えば反復横跳びを早くやるように練習する時に、早く行くためには内側で止めているように見えるんだけど、実際は一度外側にかかってこないと人間てこう動けないのに、教える側はいつも内側でストップをかけるように教える。でも実際行われていることは違う。ゴルフでもこういうことっていっぱいあるんだけど。僕は小さい時から、なんでこういうことを教えるんだろう?とハテナマークがいっぱい付いていた。そういう意味では、違わない?これ?という疑問を持つ子供だったから、早い段階からゴルフで一般的に言われているセオリーっていうのは、間違っているのがいっぱいあるね、というのがいっぱい僕の中にあったんですよ。

ー ゴルフのセオリーで一つよく言われるもので「再現可能性」ってありますよね。

それね、すっごく間違っていて(笑)。

ー(笑)そうなんですか??

みんなね、僕も年間通して色んな方と回るんですけど、「いっつもまっすぐ、いっつもグリーンに乗って、いっつも同じように振れていいですね!」って色んな人から言われる。でも、僕ね、ゴルフを始めて依頼、一回たりとも同じスイングをして同じように球を打とうと思ったことが一回もない。残念ながら皆さんの想像と違って。ゴルフっていうのは自然を相手にしているんで、球を打つときに同じ条件ってあり得ないでしょ。クラブを持つのでも、1mmたりとも違わずに毎回持てるかというと持てない。

 

あと自分の体のコンディションも、ある時は手がむくんでて、ある時はしっかり持ててとか。あとスイングをしているときに、風の向きが変わったりすることがある。正面から来てると思ったら、いきなり後ろから来たりする。そういうとき同じことをやっていてもダメで。それに対応できるように、スイングの途中にこれは強すぎだからスピード緩めたり、加速させたり、とか、最初はフックで打とうと思ってたけどやっぱりスライスに打ち替えたり、とか。スイングの途中にそういうふうにできる準備を僕はずっとやっている。

 

それが多用力で、ゴルフで同じことをやらないことがゴルフでは求められるのに、なぜか同じことをしなさい、とみんなが教えてしまうから、そう思われてしまうんだよね。

 

僕も何億回、何兆回という数の球をスイングをして打っているけれども、一回たりとも同じスイングをしたいと思ったことがない。だから、変化に対応できるようにしておくのがゴルフの練習。

 

僕のコーチに、スイングの途中でスライスとかフックとか、高い球とか低い球とか言ってもらう練習をよくしてる。その瞬間に筋肉にそういう反応をさせて、軌道を変えれば球も変わるでしょ。でもそれを変化させるためには、持っているときにクラブのヘッドがどこにあるか、どっちを向いてるかとか分かってないとできないでしょ。それを感じれるために、練習をしている。だから、鏡を見ても意味がない。神経を研ぎ澄ませて、軌道の変化を付けさせる訓練をすることがゴルフでは大切なのに、みんな毎回同じことをしてください、と言う。これは間違い。

ー 実は、ピラティスって、今はエクササイズを「ピラティス」と呼んでいますが、開発者のジョセフ・ピラティスさん自身は「コントロロジー」って呼んでいたんです。

そうなんだ!確かに自分で筋肉をコントロールしないとできないよね。て言うことは、脳が指令していると言うことだね。そう言う意味で、僕がやろうとしていることに、一番近いものだなって言うのがすごくあったんだね。だから続けている。

 

ヨガとは少しやっぱり違うよね。ヨガは精神世界が強い感じかな。ピラティスは動きと言うのが大きいよね、ポーズって言うよりもね。やっぱりそこが大きく違うよね。

ー ゴルフのトレーニングって本当に奥が深いですね。なんかそこまで行き着くのにだいぶ時間がかかりそうな気がして来ちゃいました。(笑)

(笑)結局ね、ゴルフって、振ったときに通そうって思うところにクラブを通せればいいんですよ。ゴルフって、練習場で反復しやすい環境が作られているでしょ、特に日本では。マットが敷いてあって平らで。でも実際ゴルフ場に出てしまうと、やっぱり実際それは違うわけだよね。自分の球があるところに、自分のクラブを降ろせるようになる訓練が必要。極端に言うと、どんな格好をしていても、パンって当たるような練習が出きていればOKなんだよ。

 

マニュアルってものがあるけど、マニュアルっていうものは一番レベルの低いところに設定されていて、それが誰でもできる内容じゃないといけない。例えば料理でも、一番うまい人に合わせると、それはみんな作れないから、できない人でもできる内容にしないといけない。それを基準にしないといけない。ファーストフードはだから回るわけで。

 

でもどこかの料亭とかどこかの3つ星レストランだとかなると、やっぱりそこのシェフしか作れない。ゴルフももちろん同じことで、最初はまあ分からないから、日本の場合はスクールにまずは入って大体同じマニュアルに沿って教えてもらうわけなんだけど、そこで教える内容がマニュアル化されているから、やっぱりゴルフはうまくいかないというところがあって。

 

やっぱり基本はマンツーマンで、その人の特徴に合わせる必要があるとは思ってます。僕、その東京国際大学のゴルフ部の監督でもあるんだけど、教授にもなっていて授業を教えてるんですよ。そうするとゴルフを経験したことのない人たちにゴルフを教えてもいるんだけど、通常皆さんがスクールで習っていることは僕は教えていないと思う。

 

例えばバンカーショット。砂の上に板チョコがあって、その真ん中にボールが乗ってる。普通にサンドウェッジでまっすぐに構えて、普通にスイングをして、その板チョコをスパンって取ってごらん。普通にまっすぐに打っていいから。

 

これをやればスパンって出る!

 

みんながこういう風にやって、こうやってやるんだって教えるから、そう思っちゃうんだけど、実はそうじゃない。少なくとも砂を爆発させるためにはスピードヘッドが必要。でも普通じゃない構え方をするとスピードが出るはずがない。特に女性のクラブは柔らかいでしょ。普通にまっすぐ振ることでスピードも出せるし、出るに決まってるんだよ。

ー 今すぐ、板チョコ買ってバンカーに行きたくなりました!(笑)

もちろん色々飛ばないようにようにしたり練習しなきゃいけないんだけど、まずは出すことが必要で、授業の中でゴルフをしたことのない子たちにバンカーの授業でこれを教えると、他のやり方を知らないから、みんなボンってすぐ出るんだよ。変なことしないから。マニュアルっていうのはそういうことで。教える側に都合がいいように作ってあるっていうのもあるから、必要のないものが組み込まれることも多いんだよね。

 

実はプロのアスリートって、やっぱりそれが自分の生きる道だから、本当のことは全部言わないんだよね。でも僕みたいな立場になると、ゴルフ部の子たちにも自分の近くの人たちにも、本質を伝えてしまう。そうすると「え、そうなんですか??」っていうことがものすごく多い。一般的な理論で頭が凝り固まってしまうと、そういうことを前提に考えてしまうし、Youtubeとか見てやってみようって思うこともいっぱいあると思うんだけど、実は間違っていることがたくさんある。まあ、それがスポーツのいいところでもあり、楽しみでもあるんだけど。

ー ボールが毎回違う、スイングは毎回違うというのは、言われると当たり前のことのようですが、衝撃的でした。

違わなきゃいけない。それが違わなかったら、1ヤード、2ヤード、どうやって打ち分けられますか?ってなってしまう。それを要求される訳だから。これは8割。これは6割。これは4割。とスピードをコントロールできるようにならないといけない。その自分の感覚と、現実を一致させられるようにしないといけない。それを近づける練習をしないといけない。それにはピラティスがぴったりだよね。

ー ありがとうございます!大変勉強になりました。最後になりますが、今後の目標などありますか?

死ぬときに笑って死にたい(笑)。そのためには体のメンテをしないといけないし、ゴルフのパフォーマンスをあげることもそうだし、ゴルフの指導も一つの楽しみになっているし。家族も孫ができ、楽しく老後を過ごしたいというのが大きな目標です。

 

実は僕海も好きで、スキューバのライセンスも持っていて、一級船舶の免許も持ってるんです。海で楽しく遊ぶための体の訓練をしていきたいな、と思っています。ヘルニアでそれができなくなっているんで。水中に入って潜水するのはすごくボディメンテナンスには圧力がかかるからいいんだけど、タンクを担いでビーチエントリーしないといけないからそれが負担になるから、ちょっと辞めてたんだよね。

ー そのためにもぜひピラティスをお役立ていただければ嬉しいです!ゴルフとピラティスの体をコントロールするというコンセプトが、物凄いリンクしているんだなっていうのを、改めて感じることができました。自分もゴルフはまだ必死に打ってるだけなので何も考えて無かったのですが、、、

毎回、こうしようって思ってやることが大事。それにどういう風に一致できるか、というのが大事。反復練習っていうのは悪くないけど、非常に非効率的。しかも練習場で練習する時って、打ってから次打つまでが短いでしょ。実際コース行くとインターバルが長いから、反対に考える時間も長いわけ。今度当たんなかったらどうしよう、とか、こっち行ったらいやだな、とか色々考えるから。

 

本来はそれを練習場でもやった方がいいんだけど、なかなかできないから、せめて一球一球、こういう風に打ちたいなと思ってやることが大切。脳って騙すこともできるわけで。コースで右に行くの嫌だなって思うと右に行くでしょ?それって脳がそう指令しているのよ。脳ってダメ、良いって言う判断ができないから「右ダメ」って思っても「右」だけ脳が記憶して「右OK」って言う指令になっちゃう。だから「右打ちなさい」になってしまう。だから本当は「右はダメだよね。左に打ちなさい」ときちんと指令しないと、「右行っちゃ嫌」ではダメなのよ。

 

「こうして打ちたい」というのをしっかり意識してやっていると、脳もそれの訓練がされる。それが電気的に体に指令をするようになる。それの訓練がなければシナプスなどの物質が色々な伝える訓練をするから指令になって、そうやって脳に皺ができてくるわけだから。それは意識してやらないと。スポーツだからと言って、筋肉に覚えさせろ、と言うのは大きな間違いなのですよ。

 

だってピラティスはそんなことできないでしょ?体に覚えさせることなんてできないでしょ?

ー できないです…。(笑)

同じことなんだよ!(笑)運動は全部一緒なんだよ。悪しき風習がそうなってしまっているけど、考え方を変えないと。

 

人間って不安って思うと次から次へと球を打ちたくなるじゃない。僕、最近は忙しくて時間があまり取れなかったんだけど、自分の練習として各クラブ5球だけ打つことにしたの。13本あるクラブ全部それぞれ5球だけ打つ。時間にするとほんの30分くらいで終わってしまう。で、最後の球でミスしたとしても、必ず次のクラブに行く。普通はそう言う感覚ないでしょ。当たるまでやって次だよね。でもコース行って当たらなかったとしても、次のクラブに行かないといけないでしょ。て言うことはその訓練をした方がいい。ミスショットしてもそこで自分が断ち切ると言うことをしないといけないんだよ。コースでミスショットをしたら、次に行かないといけないわけでしょ。

 

それも自分の感覚として訓練してないと、意識の訓練をしておかないと、すぐに試合に出たりすることができないからね。急にやっても不安になってしまうから。パーンって打って、あ、失敗、はい、次のクラブ、ってできるようにしておかないと。それも訓練。

 

急いで次に同じことをしなくても、次のものを準備をして新たにやる、と言うことができていれば急ぐ必要がない。慌てるという感情はよくないからね。アスリートってせっかちだし早く結果を出したいから、基本。でもこう言うのって早く結果は出ないから。そう言う訓練が実は一番の近道なんだよね。

ー 本当に勉強になりました。貴重なお話、本当にありがとうございました!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。