昨日より今日、今日より明日、必ず何かを掴んでいたい。
その人に寄り添って、未来を一緒に見据えて支えてくれるスタジオ。それがBDC PILATES。
聞き手:BDC PILATESディレクター 樋口知香
名古屋から世界へ―プロへの道
「新国立劇場バレエ団で踊っている米沢唯です。3歳から地元、名古屋のバレエスタジオでバレエを始め、ただただ踊ることが大好きでした。15歳の時、ローザンヌコンクールのファイナリストになり、初めて『本気でプロを目指したい』と思うようになりました。
同年代の人たちが海外へ留学して専門的に学ぶ中、私は高校進学を選び、さらに大学にも2年間在籍しました。バレエも好きでしたが、勉強も好きだったんです。
転機はバレエコンクールでした。舞台で踊った私を見て、アメリカ・バレエサンノゼのディレクターが声をかけてくださったのです。バレエ学校を経ずに直接バレエ団に入るというのは珍しいと思うのですが、私は思い切ってそのチャンスを掴み、3年間アメリカで踊りました。異国での日々は刺激的で、踊ることへの視野を大きく広げてくれました。帰国後に新国立劇場バレエ団へ入団し、15年が経ちました。」
独学が生んだ探求心
「実は、私にはずっとコンプレックスがあります。それは『一つのバレエメソッドを体系的に学んでいない』ことです。多くのダンサーが海外の名門校で確立されたメソッドを学び、その基盤を持ってバレエ団に入ります。私はその過程を経ていない。だからこそ、ゼロから自分で積み上げていくしかないという感覚が常にあります。
そのため、ヒントを探して自分なりにさまざまなトレーニングに取り組み、そこから学びを得て踊りに活かしてきました。そういう意味ではずっと独学をしてきている感じです。
自分で模索し、試し、理解する。そうした積み重ねが、今の私を作っているのだと思います。」
BDC PILATESとの出会いと衝撃
「BDC PILATESに通い始めたのは2017年、スタジオがオープンして間もない頃だったのではないでしょうか。ちょうど踊りに伸び悩みを感じていて、自分の中で何か突破口を見つけたいと思っていた時期でした。そんな時、バレエ団の先輩から『こんなスタジオがあるよ』と紹介してもらったのがきっかけです。
初めてここで受けたセッションは、今でも鮮明に覚えています。私は新しいことを始める時、とにかく“まず10回は続けてみる”と決めているのですが、初回から体の変化を感じました。
井上さんは、『今のは違う』『それが合ってる!』と、できている時とできていない時をはっきり示してくれる。セッションの前後で自分の体が明らかに違うことに衝撃を受けました。」
最初はジャンプが目標だった
「最初にお願いしたのは『ジャンプをもっと高く、もっと自由に跳べるようになりたい』ということでした。自分では気づけなかったのですが、呼吸の入り方や背骨の使い方に大きな課題があったんです。
基礎的な動きを何度も繰り返しながら、体の奥深くに眠っていた感覚を一つひとつ呼び覚ましていく。すると、重さが抜けて空気を掴むように跳べる瞬間が少しずつ増えていきました。
やがてバレエ団のディレクターからも『ジャンプが変わったね』と言われ、自分でも着地の音や空中での滞空感が明らかに違うと実感できました。あのときの喜びは今も忘れられません。」
言葉で理解するピラティス
「私はただ感覚だけで踊るのではなく、つかんだ感覚を言葉にして頭で理解しておきたい。ピラティスはまさにそれが可能。
筋肉や骨の動きを明確に“言語化”できるから、体で感じたことが整理されて、迷いなく踊りに生かせます。
セッションは治療のようでもあり、ストレッチでもあり、そして鍛錬でもある。体の奥の固さを少しずつ解きほぐしながら、新しい力を呼び起こす感覚があります。終わったあとは、体も心もニュートラルに戻って、『よし、明日も頑張ろう』と思える。
私たちダンサーは、その時踊っている作品で体も心も変わります。少し調子が悪い時でも、ここでのセッションの後には「人間に戻りました!」とよく言っているんです。
私にとってかけがえのない時間です。」
信頼できる人と場所
「井上さんは、いい意味でスパルタなんです(笑)。『あと3回』と言いながら、気がつけば5回やっていたりする。初めての時も今も変わらないのは、セッションの後、必ず体が変わっている実感があること。エクササイズの一つ一つが確実に自分を変えてくれる。
プロのバレエダンサーは精神的にも肉体的にもギリギリのところで踊っていて、毎日いろんなものを抱えています。そんな中で、セッションの時間だけは何も考えず自分に集中できる。
それに何かあったら、あの人に言えば大丈夫、一緒に解決してくれる、と思える存在に出会えることは本当に貴重です。
『この人なら何でも相談できる』と心から信じられる存在がそばにいてくれることは、どれほど心強いことか。体だけでなく心の支えをもらえる場所がある、それがどれだけ貴重かを日々感じています。」
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
BDC PILATESは、未来を支えるスタジオ
「BDC PILATESは“今”だけではなく、未来を見据えて人を支えるスタジオだと思います。
来た人がその時だけ気持ちよく動けばいい、という考え方もできるでしょう。でもここでは、翌日や1週間後、1年後までその人の体と人生が少しでも良くなるように、深く考えられたセッションが用意されている。
トレーナーのみなさんが資格取得に長い時間をかけ、絶えず学び続けているのも、その未来を見据えているからこそ。ここでセッションを受けていると、その誠実で真摯な姿勢が自然と伝わってきます。」
ダンサーとして、人として
「私は迷った時や壁にぶつかった時、一人で抱え込まずに信頼できる人に相談します。自分の足だけでなく、人の手も借りながらもう少し遠くまで行きたい。
BDC PILATESはダンサーだけでなく、誰にでも開かれています。ダンサーでないとダメ、という敷居はまったくなくて、どんな人でも歓迎してくれる。本当にオープンなスタジオだからこそ、多くの方にこの魅力を知ってほしいと思っています。」
バレエはアートであり、アスリート
「私たちは舞台の上で優雅に踊ることを目指していますが、やっていることはまさにアスリート。日々、自分の体と心に誠実に向き合い、最高のパフォーマンスを届けるために準備を積み重ねています。
バレエを観たことがない方もぜひ劇場へお出かけください。そして私の愛するバレエという美しいアートを楽しんでいただきたいです。」
インタビューを終えて – ディレクター所感
米沢唯さんが一つひとつの言葉を選びながら、これまでの道のりやBDC PILATESとの時間を語ってくださったことに、心から感謝の念でいっぱいです。
「今だけではなく、未来を支えてくれる場所」「今、ここだけではなくて、その先を見据えて誠実に真摯に向き合っているのが分かる」という表現は、私たちが大切にしてきた想いそのもので、胸が熱くなりました。
ダンサーとして世界の舞台で活躍し続ける唯さんが、日々の鍛錬や探求心を惜しまず、体と向き合い続ける姿勢は、私たちスタッフにとっても大きな刺激です。
レッスン後に「人間に戻りました!」と笑顔で話してくださる瞬間、私たちが届けたい“ニュートラルに戻れる時間”が、確かに誰かの力になっているのだと感じます。
BDC PILATESは、ダンサーだけではなく、どなたにとっても“明日の自分を支える場所”でありたい ― その願いを、唯さんの言葉が改めて確かにしてくれました。
これからも、唯さんのように日々挑戦を続けるすべての人の背中をそっと押せるスタジオであり続けたいと思います。
唯さん、本当に素敵なお話をありがとうございました。
そして、これからも舞台でのさらなるご活躍を心から応援しています。
BDC PILATES ディレクター 樋口